ある地方都市で暮らす八十代の男性の事例は、訪問介護がいかにしてゴミ屋敷という難局を乗り越え、セルフネグレクトの状態から人を救い出せるかを示唆しています。この男性は妻に先立たれてから急速に意欲を失い、家の中はコンビニ弁当の容器と排泄物の入ったペットボトルで溢れかえっていました。近隣住民からの苦情を受け、介入することになった訪問介護事業所は、当初、本人からの激しい拒否に遭いました。「勝手に入るな、俺の好きにさせろ」と怒鳴り散らす彼に対し、担当のヘルパーは決して怯まず、しかし無理に踏み込むこともしませんでした。彼が玄関先で立ち話に応じてくれるまで、一ヶ月の間、毎日五分だけ声をかけ続けました。転機は、彼がふと漏らした「本当は風呂に入りたいが、床が滑るから怖い」という一言でした。ヘルパーはすぐに、風呂場までの動線を確保するために、最低限のゴミだけを片付ける許可を得ました。これをきっかけに、介護保険外のサービスや清掃ボランティアを組み合わせ、一気に衛生状態を改善するのではなく、彼の生活動作を支える形で少しずつ空間を取り戻していきました。最終的には、彼は週に二回の訪問介護を心待ちにするようになり、清潔な衣服を身にまとい、笑顔でヘルパーを迎えるまでになりました。この成功事例の鍵は、本人の「自律性」を尊重しつつ、多職種が連携して重層的な支援を提供したことにあります。しかし、一方で課題も残されています。このような手厚い介入には膨大な時間とコストがかかりますが、現在の介護報酬体系ではゴミ屋敷への対応に対する評価が十分ではありません。ヘルパーの献身的な努力に頼りすぎる現状は、スタッフの燃え尽き症候群を招くリスクを孕んでいます。ゴミの山を取り除くプロセスは、溜まっていた家族間の不満や誤解を解消し、新しい信頼関係を築くためのステップとなるはずです。成功事例を単なる美談で終わらせるのではなく、制度的なサポートをどう構築していくか。現場の奮闘を支える社会の仕組み作りが急務となっています。
セルフネグレクトに陥った高齢者への訪問介護介入の成功事例と課題