「来月でこのマンションの契約が切れる」。その事実が私を絶望の淵から引きずり出してくれました。私が一人で暮らすワンルームマンションはいつしか私の心の荒廃を映し出すかのようにゴミで埋め尽くされていました。更新はしない。新しい場所で人生をやり直す。そう決意したものの目の前には退去というあまりにも高い壁がそびえ立っていました。このゴミの山をどうすればいいのか。自力での片付けは早々に諦めました。分別も処分もそして何より近隣の住民の目が怖かったからです。私はインターネットでいくつかの片付け業者に見積もりを依頼しました。最終的に私が選んだのは料金の安さではなく電話口の担当者の女性の温かい言葉でした。「大丈夫ですよあなたは一人じゃありませんから」。その一言が私の固く閉ざした心を少しだけ溶かしてくれました。作業当日3人のスタッフが驚くほど手際よくそして静かに作業を進めてくれました。私が残してほしいとお願いした数少ない思い出の品以外は次々と袋に詰められ部屋から消えていきます。全てのゴミが運び出されプロの技術でクリーニングされた部屋はまるで入居したての頃のように輝いて見えました。費用は約30万円。退去費用として貯金のほとんどを使い果たしました。しかし私は後悔していません。立ち会いの日管理会社の担当者は綺麗になった部屋を見て何も言わずただ敷金を全額返してくれました。それが大家さんなりの優しさだったのかもしれません。新しいアパートの何もない部屋に段ボール一つを置いた時私はようやく息ができたような気がしました。あの30万円は過去の自分と決別し新しい人生を始めるための卒業証書だったのだと今思っています。ゴミ屋敷からの退去は終わりではなく始まりなのです。