テレビのニュースやワイドショーで、時折、衝撃的な映像と共に報じられる「ゴミ屋敷」。それは、もはや一部の特殊な人々の問題ではなく、日本全国のあらゆる地域で深刻化している、現代社会が抱える病理の一つです。では、実際に、日本全国にゴミ屋敷はどのくらいの数、存在するのでしょうか。実は、この問いに正確な数字で答えることは、非常に困難です。なぜなら、ゴミ屋敷に関する全国規模での統一された公的な統計調査が存在しないからです。ゴミ屋敷は、その多くが個人の住宅内で発生するため、外部からその実態を正確に把握することが難しいのです。しかし、いくつかの調査やデータから、その規模を推測することは可能です。国土交通省が2022年に行った調査では、市区町村がゴミ屋敷に関する条例を制定している自治体は、全体の約3割に上ります。また、多くの自治体が、年間数十件から、多いところでは数百件のゴミ屋敷に関する相談や苦情を受け付けていると報告しています。これらの数字を全国規模で合算すれば、表面化しているだけでも、数千から数万件のゴミ屋敷が存在する可能性が示唆されます。さらに、これはあくまで行政が把握している件数に過ぎません。近隣住民が我慢していたり、社会から完全に孤立していたりして、問題が表面化していない「潜在的なゴミ屋敷」は、その何倍、あるいは何十倍も存在すると考えられています。高齢化の進展、単身世帯の増加、経済格差の拡大、そして地域社会の希薄化。これらの社会的な背景が、ゴミ屋敷を生み出す土壌となっています。全国に点在するゴミ屋敷の数は、単なる物件の数ではなく、社会から孤立し、助けを求める声を上げられずにいる人々の数を映し出す、静かで、しかし深刻な指標なのです。