親や親族が亡くなり、その家が長年放置された結果、いわゆる「ゴミ屋敷」と化しているという現実に直面する相続人は少なくありません。故人を偲ぶ間もなく、目の前には途方もない量のゴミが山積し、悪臭や害虫の発生といった衛生問題、さらには近隣住民からの苦情など、様々な問題が押し寄せます。このような状況で多くの人が考えるのが、「相続放棄」という選択肢です。相続放棄は、故人の残した全ての財産(プラスの財産もマイナスの財産も含む)を一切引き継がないという法的な手続きであり、ゴミ屋敷の清掃費用やそれに伴う負債から逃れる有効な手段となり得ます。しかし、もしゴミ屋敷の問題を放置し、相続放棄の手続きも取らないままにすると、一体どうなるのでしょうか。まず、ゴミ屋敷を放置すると、建物の劣化が急速に進みます。雨漏りやシロアリ被害、老朽化による倒壊の危険性など、物理的な問題が顕在化し、最終的には不動産としての価値が著しく低下するか、あるいは負の価値を持つことになります。また、悪臭や害虫の発生は近隣住民とのトラブルに発展しやすく、行政からの指導や命令が下される可能性もあります。清掃命令が出されたにもかかわらず放置すれば、行政代執行により強制的に片付けが行われ、その費用は相続人に請求されることになります。相続放棄の手続きを取らずに放置した場合、相続人は故人の全ての財産と負債を「単純承認」したとみなされます。これは、ゴミ屋敷の清掃費用はもちろんのこと、故人が残した借金や未払い金なども全て引き継ぐ義務が生じることを意味します。もし、故人の財産が清掃費用や借金の額に見合わない場合、相続人は自己の財産からそれらの費用を支払わなければならなくなる可能性もあります。また、ゴミ屋敷の土地や建物は、固定資産税などの税金がかかり続けます。相続放棄をせずに所有権が相続人に移転した場合、これらの税金も相続人の負担となります。誰も住まないゴミ屋敷に税金を払い続けることは、経済的にも大きな負担です。さらに、ゴミ屋敷が火災の原因となったり、倒壊して他人に損害を与えたりした場合、相続人はその損害賠償責任を負う可能性もあります。近隣住民に被害が及んだ場合、賠償額は巨額になることも考えられます。