「どうしてこんなものまで取っておくの?」という家族の問いかけに、住人が答えに詰まり、逆上するのは、彼らが単にだらしないのではなく、心理学的に「溜め込み症(ホーディング)」という心の不調を抱えている可能性があるからです。家族の中にこの問題を抱える人がいる場合、責めることは病状を悪化させることに他なりません。親としての責任感から一人で抱え込んでしまい、結果として子供を犠牲にしてしまうのは、最も避けるべき事態です。彼らにとって物を手放すことは、自分の体の一部をもぎ取られるような激しい痛みを伴う行為なのです。この心の病を理解し寄り添うための作法として、まずは「ゴミ」という言葉を使わないことから始めてください。彼らにとっては全てが「必要な物」であり、その価値観を否定されることは、自己存在そのものを否定されることに等しいからです。次に、物の要不要を判断させるのではなく、その物が「現在の生活を豊かにしているか」という視点で対話を進めます。例えば、「この古い雑誌があるせいで、お気に入りの椅子に座れないのはもったいないね」というように、物の存在がもたらしている「不利益」に気づかせるアプローチが有効です。また、溜め込み症の背景には、過去の深刻な喪失感や、将来に対する極度の不安が隠れていることが多いものです。家族は、その不安の正体が何であるかを共に探り、心の隙間を物ではなく、家族の触れ合いや新しい趣味、社会的な役割などで埋める手助けをしなければなりません。精神科医やカウンセラーなどの専門家による治療が必要なケースもありますが、その橋渡しをするのは家族の無条件の受容と愛情です。ゴミの山は、住人の心の傷跡を覆い隠す包帯のようなものかもしれません。その包帯を剥がす際には、痛みを分かち合い、新しい皮膚が再生するまで根気強く見守る、そんな家族の慈しみの心が、ゴミ屋敷という迷宮からの脱出を可能にするのです。
家族の中に潜む溜め込み症という心の病を理解し寄り添う心の作法