ゴミ屋敷のキッチンから運び出される物の中で、最も住人の心の在り様を雄弁に物語るのが、大量の「期限切れの食品」です。特に、何十年も前に賞味期限が切れた缶詰、カビて真っ黒になった調味料、乾燥して石のようになった乾物類などは、キッチンの奥深くで住人の「止まった時間」を体現しています。なぜ、食べられないことが明らかなこれほど古い物を、彼らは捨てずに持ち続けてきたのでしょうか。そこには、ため込み症(ホーディング)と呼ばれる心理的特性が深く関わっています。彼らにとって、キッチンにある物は単なる食料ではなく、将来への不安に対する「備え」であり、あるいは過去に豊かだった頃の「証拠」でもあります。「いつか使うかもしれない」「捨てるのはもったいない」という心理が、明らかに有害となった物に対してさえも働いてしまい、決断を下せないまま歳月が流れていくのです。清掃の過程で、私たちはこれらの「期限切れの執着」を一つひとつ手に取り、住人と対話しながら、あるいは了解を得て処分していきます。膨れ上がった缶詰を開封する作業は、腐敗ガスの噴出という物理的な危険を伴いますが、それ以上に「過去の執着を解き放つ」という重い意味を持っています。キッチンのゴミ屋敷化は、物質的な豊かさの中にいながら、精神的な飢餓状態にある現代人の悲劇でもあります。かつて誰かのために美味しい料理を作ろうと買った食材が、一度も使われることなくゴミの山の一部となっている光景は、深い悲哀を感じさせます。私たちは、これらの物を廃棄物として処理するだけでなく、その背景にある住人の想いや、整理できなかった心の痛みを汲み取りながら作業を進めます。キッチンの棚が空になり、何年も前に止まっていたカレンダーが剥がされたとき、住人はようやく「現在」という時間軸に戻ってくることができます。期限切れの缶詰を捨てることは、過去の自分を否定することではなく、これからの自分を自由にするための第一歩です。私たちは、止まっていた時間を動かすための伴走者として、住人の執着という重荷を、キッチンから丁寧に運び出していきます。
期限切れの缶詰が物語る住人の止まった時間と執着