不動産管理会社に勤務して十年以上になりますが、ゴミ屋敷に端を発する賃貸借契約解除の案件は、何度経験しても精神的に削られるものです。きっかけはいつも、近隣住民からの「隣の部屋から異様な臭いがする」「ベランダに大量の虫が湧いている」という悲鳴のようなクレームから始まります。現場へ向かい、ドアの隙間から漏れ出る、言葉では言い表せない腐敗臭を嗅いだ瞬間、胃が締め付けられるような感覚に襲われます。郵便受けには数ヶ月分のチラシが溢れ、呼び鈴を鳴らしても応答がない。ようやく入居者と連絡がつき、立ち入り調査を行った際の光景は、まさに地獄絵図です。床は見えず、天井近くまで積み上がったゴミの山。その隙間で、入居者は力なく座り込んでいます。このような状況であっても、私たちは感情的に「今すぐ出て行ってください」と言うことはできません。賃貸借契約の解除には、正当なプロセスと証拠の積み重ねが必要だからです。まずは現状の深刻さを本人に説き、改善の意志があるかを確認します。しかし、多くの場合、入居者は「自分で片付けます」と繰り返すだけで、実際に行動に移されることはありません。ここからが家主側との板挟みになる苦しい期間です。近隣からは早期解決を迫られ、家主からは資産価値の低下を嘆かれ、一方で法的には強引な追い出しは許されない。私たちは何度も足を運び、内容証明郵便を送り、段階的に契約解除へと駒を進めていきます。ある案件では、解除通知を出した後に入居者が逆上し、さらなるゴミを溜め込むという嫌がらせに遭ったこともありました。最終的に明け渡し訴訟に発展し、強制執行が行われるまでの一年間、私の頭の中は常にその部屋のことで一杯でした。強制執行の日、トラック数台分のゴミが運び出され、もはや元の素材が分からないほど傷んだ床や壁を見たとき、住まいを失う入居者の悲哀よりも、建物をここまで放置してしまった無念さと、ようやく終わったという虚脱感だけが残りました。ゴミ屋敷による契約解除は、誰も幸せにならない結末です。しかし、管理会社として、住環境の質を守るためには、この過酷な決断を下し、淡々と手続きを完遂する冷徹さもまた、求められる資質の一つなのです。